Friday, February 01, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 1

前回のエントリーでも書いたように、今回のSIGMA DP3 Merrillのコミュニケーションは、「カメラの作例」というものではなく、写真家の「作品」を見てもらいたい、という強い思いを持って取り組みました。その意図はカタログにも反映し、従来よりもより作家の意図が際立つようにすべてを細かくチューンしました。DP2 Merrill、DP1 Merrillのカタログと見比べていただければ、その見え方に僕の意図を汲んでいただけるかと思います。

さらに、これは特筆しておきたいことなのですが、SIGMA DP3 Merrillのサンプルギャラリーでは、今回、セイケ・トミオさんの実写写真をそのまま公開するという、前代未聞のことにチャレンジしました。プリントで勝負する写真家が、自分のオリジナルのデータをパブリックに配布するというのは、本来はありえないことなのです。ましてやその写真家が、美術館にコレクションされるような写真家「セイケ・トミオ」なのですから、まずそのことを記し、セイケさんに心から感謝したいと思います。セイケさん、ありがとうございます!

セイケさんがこのDP3 Merrillプロジェクトに対して、どれほど深い思いを持って携わってくださったか、これはまたしっかりと伝えて行きたいところですが、その思いの一端に、「カメラ」だけではなく「写真」の素晴らしさを伝えて行きたい、というこちらの思いに共感してくださったのだと思います。これはまた書きますね。

さて、SIGMA DP3 Merrillのサイトには数多くセイケさんの写真を掲載しました。DP3 Merrillに搭載されたシグマ独自のキャプチャ技術と、35mmカメラ換算で75mmというレンズの素晴らしさを理解して頂きたいだけでなく、さらに「シグマのカメラでしか撮れない絵がある」ということを知って頂けたらと思います。前置きが長くなりましたが、以下は、サンプルギャラリーの写真を撮った時のメモです。

DP3M-01
セイケさんが撮影された写真です。プラハ北部の庶民が住むエリアの小さな公園で撮影しました。トラムを降り、この公園を横切って、街の裏側に歩みを進めようとしていたとき、重たい雲間から微かな光が差しました。その瞬間、セイケさんはぴたっと足を止め、眼に映るものを見据えます。そしてこの枝に照準を合わせられました。この時のセイケさんのものすごい集中力は忘れられません。

DP3M-02
これもセイケさんが撮影された写真です。場所はプラハ北駅です。多くの人々が行き交い、混雑する夕方の駅の雑踏の中で撮られたのに、この写真には静けさがあります。また、建物、トラム、乗客、歩道を歩く人そして手前のガラス窓のグリッドと照明の映り込み。これだけ複雑な要素が絵として整然と整理されている。驚きです。ディストーションがどうだ…などの前に「写真」として見ていただきたい一枚です。

DP3M-03
これもセイケさん撮影の写真です。実はこの写真は「多様な質感が混ざったものとして撮ってみてもらえますか」と、僕からセイケさんにお願いして広場まで行って撮っていただいたものです。ですのでセイケさんの本来の眼から選ばれた被写体ではありません。それでもこの完璧さ。驚きです。脱帽です。DP Merrillシリーズのコンセプトである「いつでも作品としての写真が撮れる」を体現してくださるセイケトミオ、恐るべしです。

DP3M-04
セイケさん撮影の鉄扉の写真です。トラムから降りてナーロドニ通りを東に行ったところに大きな鉄扉がありました。扉自体にも景色がありましたがセイケさんは少し離れたところからじっと見つめ、この距離まで近づいて構図を決められました。鋳鉄製の取っ手を際立たせる薄い被写界深度の使い方に加え、菱型と縦線の構成。すべてが完璧です。ちなみにこれを撮影しているセイケさんの後ろ姿をFlickrにアップしました。

DP3M-05
ロンドンから来られたセイケさんとプラハで落ち合った初日、「まずあそこに行ってみたい」と仰るセイケさんのご希望でロケハンに向かったのがこの鉄橋でした。最初はなぜこんな朽ち果てた場所に行くのか意味がわかっていませんでしたが、翌日の午後、再度この場所に訪れて撮影。そしてこの写真です。この煙突と鉄橋のダイナミックな構図を見て僕は衝撃を受けました。写真家の「眼」とはこんなにもすごいものなのか!と。

DP3M-06
セイケさんとのプラハでの撮影は、とにかくよく歩きました。心に感じる撮るべき被写体に出会うまで歩き続ける。それがセイケさんのスタイル。そしてセイケさんの背中を追いかけながらの最終日、この光景と出会ったとき、「だからこそ撮れる写真がある」ことを深く学びました。また、まるでいまこれを見ているように感じるこの写真からは、朽ちた鉄格子、闇、そして向かい側からの光、と、この写真にセイケさんが込めた「心」に感じたものが伝わってきます。

DP3M-07
これも最終日にセイケさんが撮影された写真です。僕はこの写真を見た時、泣きそうになりました。写真家セイケ・トミオという人と一緒に過ごす時間が持てたことが、どれほど素晴らしいことか、心底からわかった瞬間でした。そして同時に、この石の階段を撮った一枚は、写真を撮るときに、構図や色やピントといったこと以上に、撮り手が「心」というものを持つべきなのだと、きっと見るひとに伝わる、と思いました。


セイケさんが、実際にDP3 Merrillで撮られたサンプルギャラリーでの原寸の写真データの公開は、以上の7枚になります。いま開催されているCP+に飾られたモノクロプリントのように、これらの写真も含め、サイトで使われた写真、また、カタログで使った写真、それ以外にも、今回、DP3 Merrillで撮られたプラハでの写真は、今後、セイケさんの手によってモノクロプリントに焼かれ、まったく違った表情を見せながら、世界のギャラリーでの個展や、写真雑誌などで発表されていくことになると思います。僕はそれを、とても楽しみにしています。

ということで、サンプルギャラリーでのセイケさんの写真の解説は、まずはここまで。明日以降は、DP3M-08番以降の、僕が撮った写真について書いてみたいと思います。

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1 comment:

  1. サンプル作品の解説ありがとうございました。まことに参考になります。
    DP3M-07のように些細な物事の細部に宿る何者かしれぬ崇高なものを写し撮る巨匠の眼とそれを確かにサポートする機材、どちらも素晴らしいと思います。♪

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