Friday, April 10, 2009

都下水道局ワッペン作り直し問題について

経緯としては、「水をきれいにするイメージを出したい」という思いを持っていた東京都下水道局の担当の人が、「胸ワッペン」というアプリケーションに、その思いをぶちまけてしまい、ロゴタイプというベイシックエレメントに、デザインガイドラインでは禁止されている表現を指示してしまった。さらに「ガイドラインをちゃんと確認しなかった」ということで懲罰を受けられたというお話です。(上の画像をクリックするとFNNのサイトで報道された動画ニュースが見れます)。

で、僕はもう、デザイン業界を代表してっていうぐらいの勢いで、その懲罰を受けてしまった担当の方にお詫びしたい、という気持ちになります。新聞なども「税金をドブに捨てたムダ遣い」とか、石原都知事が「役人はダメだ」とか、とにかくボコ殴りっぽくお役所が叩かれていますが、これは、本来はデザインガイドラインを作った側、つまり東京都下水道局のCIを担当した側(どこが手がけたのか知りませんけど)の責任です。

僕も多くの企業のデザインガイドラインを作ってきました。その経験上で言うと、エレメントをどのように使っていくかを規定したデザインガイドラインを作成し、それを各所に配布しただけでは、これと同じような事態が、それこそ無数に発生します。もう考えられないような「似て非なる」デザインが、雨後の筍のように次から次へと生成されていくのです。ですから、ビジュアルコミュニケーション面でCIを完結していくには、問題が発生する度ごとに、その個々の現場の要求に応えながら、根気よく整合性を取って行く必要があります。

ですので、僕は必ず「CI規定配布から最低3年は、絶対に現場から目を離してはいけない。そのためのプロジェクトチームを作り、継続的に課題と解決を話し合っていく組織を作ってください」とお願いします。一般的な企業のアイデンテティでさえも、それが必要なのに、さらに税金を使う組織のアイデンテティを手がけるのであれば「間違ったモノを作らないようにするための配慮」は、そのままリスク・マネジメントとも直結しているわけで、絶対に「アイデンテティを作り、アプリケーション規定を行って、ガイドラインにまとめて納品」というところでプロジェクトを終了させてはいけないわけです。そこがちゃんと出来ない会社が多いというのは、デザインそのものの価値を下げてしまうので、業界全体の問題として、一人でも多くの人に、こうした問題を起こさないために、何をしていかなければならないかを考えてもらいたいと思います。

一方、こういうことが起こってしまう背景には、成果物(納品物)ベースで、見積もりや請求・支払いが、一般的な日本の商習慣となって根付いているところにも起因しているのではないかと思います。企業でも「納品物はなになのか?それにこの見積もりは見合うのか」というところで判断され、「問題を起こさないためのノウハウや継続的なサジェスチョン」という目に見えないものは「サービス」と位置づけられてしまうことが少なくありません。お役所は言わずもがなです。これを変えていくためには、ソフトを提供する側が、もっともっと「デザインというのは、ここまですごいんだな」という状態を具現化していくしかありません。僕はそこに向けて今日も頑張っています。みんなも頑張れ!



■追記:石原都知事のお言葉。「バカじゃねえか。本当にたまげた。骨身に染みて反省するよすがにさせる」。お役人は大変だなぁ…。そんなに悪いことだとしらないでやっちゃったんだし、石原さんの何の琴線に触れたかわからないけど、そこまで怒らなくてもいいじゃんと思うな。ここまでボロクソに言うなら「東京オリンピックみたいな、勝てない可能性の高い構想に、いくら使ってんだ、このやろう。その金、全部、小学校の校庭緑化に使いやがれ!」といいたくなる(もう言ってるけど)。



■追記:石原都知事のお言葉(朝日新聞)。asahi.comに別のニュアンスの報道があった。「バカだね。税金に慣れている役所はこわい。東京の下水がきれいと感じる、むしろいいデザインだ。偉い人が規格に合わないと言ったのだろう。取り返しがつかず申し訳ない」。とのこと。石原都知事は「税金を無闇に支出した」というところで琴線に触れたようだ。しかし、ここで知事が「偉い人」と呼んでいる存在こそが問題であり、僕がこのエントリーを書いた理由である。アイデンテティデザインに関わる者は「偉い人」になってはいけない。あるべき姿勢はその真逆であって、限りなく黒子に徹するような姿勢を保つべきだ。そもそも偉そうに指示するだけではアイデンテティは存在する意味を持たない。使っていく人(今回ならお役所の方々)が、そのアイデンテティを正しく「自分のもの」と認識してこそ、アイデンテティはその存在意義を持つ。僕たちは、アイデンテティをデザインすることを目的とせず、そういった理解に向けて「奉仕」して行くのが仕事の本質なのだ。



■追記:東京都下水道局のオフィシャルサイトが二つあるんですけど…。謎です。ていうか、これこそ税金のムダ遣いっぽい。これは「水道局」と「下水道局」の違いでした。僕の勘違い。すみません。
東京都水道局
東京都下水道局公式ホームページ



以下、経緯などを考察したgooの記事(日本のニュースサイトは、過去の記事をアーカイヴせず、すぐにリンク切れになるので転載する)。



制服ワッペン2万枚作り直し、3400万どぶ…都下水道局
読売新聞 2009年4月10日(金)03:06

 東京都下水道局が昨年、制服に付ける都のシンボルマークを添えたワッペンを2万枚作製したところ、シンボルマーク使用に関する内規に反したとしてこれを使わず、新たに約3400万円をかけて、ワッペンを作り直していたことがわかった。

 デザインは組織名の下に5センチ余の波線を付けたシンプルなものだったが、この責任を問い、都は担当幹部2人を訓告処分にしていた。内規を 杓子 ( しゃくし ) 定規に解釈した「お役所仕事」の典型とみられ、公費の支出の在り方に批判が集まりそうだ。

 都下水道局では、所属する計約3000人の職員用に、予備を含めて計約2万着の制服を作っているが、1978年から同じデザインだったため一新することにし、右胸に付けるワッペンも新たに作ることにした。

 ワッペン(縦2・5センチ、横8・5センチ)はシリコン製で、イチョウ形をした都シンボルマークの横に局名を記し、「水をきれいにするイメージを出したい」との願いを込め、その下に水色の波線(約5センチ)を添えることにした。職員が考案したものだった。

 ところが、約2万枚のワッペンが完成し、一部は制服への縫い付け作業が始まった昨年11月に開いた局内の会議で、ワッペンのデザインが、シンボルマークの取り扱いについて定めた都の内規「基本デザインマニュアル」に抵触する疑いが浮上。内規には、マークの位置や文字との比率などが細かく記載されており、誤った使用例として「他の要素を加えない」と規定。同局では今回、この規定を厳格に解釈したという。

 ただ、この規定は例外も認めているが、同局では、波線部分を取り除いて作り直すことを決定。制服を含めた費用は当初、約2億1300万円だったが、新しいワッペンの作製費と縫い替えの費用として、約3400万円を追加支出した。

 都は今年3月、最初のワッペンのデザインを決めた担当の部長と課長(いずれも当時)を訓告処分とした。今月から制服を一新したことは発表したが、ワッペン作り直しに関する一連の事実は公表していない。

 下水道局は「事前に規定を見ていれば防げたもので、担当者のミス。多額の費用負担を生じさせて申し訳ない。次のデザイン更新は何年先になるかわからず、それまで誤ったワッペンを続けることはできなかった」と説明している。

 下水道局を巡っては、JR王子駅(北区)のトイレの汚水が、約40年にわたって近くの川に流れ込んでいた問題で、2007年6月にこの事実を把握しながら、対策を取らずに放置していたことが判明している。

9 comments:

  1. 初めまして、いつも楽しく拝見させてただいております。

    東京都水道局のウェブサイトに関しては、
    「水道局」と「下水道局」の違いではないでしょうか?

    twitterにReplyさせていただこうと思ったのですが、
    フォローされていないので匿名で失礼致しました。

    不適切な発言でしたら削除ください。

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  2. どうやら下水道局と水道局の2組織があるようです。
    サイトが違うのはその差かと。

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  3. あー、そういうことか。上水道と下水道が別の局ってことか。勘違いしてました。ありがとうございます。本文、なおします。

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  4. 本文修正履歴
    ・勘違いのところを打ち消し線を入れた。
    ・掲げてた画像は「水道局」のロゴだったのでひっこめた。
    ・「背景」が「拝啓」になってたので修正。

    あと、東京都情報連絡室が制定した「東京都基本デザインマニュアル」が見つからない。公開されてないのかなぁ。

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  5. 内規とあったので、外に細かいのはでていないっぽいと思われますが
    三鷹市の刊行物一覧では平成元年に刊行されたとあるので、手に取れる場所はあるかもしれません。
    http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/002/002097.html

    CIの運用については全然詳しくないですが、こんなネタとかと考えると、
    http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=92913&servcode=400&sectcode=400
    これ20年前にやっておかないといけない仕事だったんじゃないかとか心配になりました。

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  6. この「パクリ?」っていうのは知りませんでした。まぁ、グリッド的には同じカタチになるわけですな。世界中の商標に照らし合わせて、事前にこういう訴訟リスクを除いていけるのは、いまやランドーしか出来ないって感じなんだけどね…。

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  7. 本文に追記履歴
    ・朝日新聞の報道があったので加筆。

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  8. こんにちは。古い記事へのコメントで恐縮ですが、その後本件の監査請求報告書が出ております。どのようにして波線入りデザインが出来上がってしまったのか、ニュースでは分からなかった複雑な事情があったようです。なかなか興味深いので簡単にまとめてみました。

    http://tokyopasserby.blogspot.com/2010/05/20.html

    CIマニュアルに関しては
    http://tokyopasserby.blogspot.com/2010/04/18ci.html

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  9. passerbyさん、貴重なまとめをありがとうございます。勉強になります。感謝です。

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