Sunday, May 17, 2009

Sigma DP2: Originality

今日(もう昨日になりましたね)の午後、銀座のアップルストア3階のシアタールームで、「アートディレクター 福井信蔵が語る SIGMA DP2の世界」という講演を行いました。14時に始まった段階で、すでに立ち見の方がおられるような盛況で、ちょっとどきどきしながらの2時間。心の広いシグマ社の山木社長のおかげもあって、楽しい時間が作れたような気がしています。銀座まで来てくださったみなさん、ありがとうございました。プレゼンに使った資料は、350dpiの印刷用の高解像度データをそのまま使ったPDFですので、そのままだと460MBもあります。150dpiぐらいまでダウンサイジングすれば、半分以下になる(それでも150MBかー)と思うので、また作業して、見て頂けるようにしたいと思っています(ちょっと時間ください)。

さて、次はコンセプトというか、DP1 / DP2に与えようとしたミッションについて書きたいと思います、と言いながら、そもそも自分の持っている仕事でとても忙しかったのと、今日の講演のための準備というところで、DP2に関するこのブログの更新が半月以上も滞っていました。すみませーん。ってことで、引き続き、DP2というカメラのことに関するエントリーを書いて行きたいと思います。そして書きたいことは本当に沢山あります。中でも、DP2のコンセプトについて語る前に、DP1という、世界を驚かせたカメラ開発のことに触れないわけには行きません。それは、DP1とDP2が持っている「独自性」そのものです。中でも、このユニークなカメラが開発されたこと自体が、いかに大変なことだったのかについて、今日は僕なりに理解しているところを書いてみたいと思います。

DP2が生まれる元になったDP1というカメラに、シグマ社が与えたコンセプトは「一眼レフ技術を、そのままコンパクトカメラに凝縮する」という、とてもシンプルなものでした。このコンセプトは、実際のところ誰もが思いつくものです。しかし、2007年にシグマ社がこのコンセプトを具体化しようと、その開発をスタートしたとき、そしてDP1が具現化した後の2009年の現在まで、シグマ社以外にこのコンセプトを具現化したカメラは存在していません。

誰もが思いつく「一眼レフ技術を、そのままコンパクトカメラに凝縮する」というシンプルなコンセプトのカメラが、なぜこれまで実現してこなかったのか…。その実際のところは僕にもわかりません。一眼レフをコンパクトカメラに凝縮するところでの技術的なハードルの高さというのは、明らかに存在しています。ただ僕は、それ以上に、シグマ社以外のカメラメーカーでは、マーケティング的な側面から開発にGOサインが出なかったところがあるのかな…という風に思っています。

ご存知のように「デジタルカメラ」というカテゴリーには、「コンパクトデジタルカメラ」という市場と、「一眼レフカメラ+交換レンズ」市場という、二つの異なるマーケットが存在しています。およそ6年前ぐらいから、携帯に搭載された、いわゆる「写メ」体験を持った数多くの人々が、「もっと綺麗な写真を残したい」という欲求を持つようになり、5年前頃から「コンパクトデジタルカメラ」市場は、爆発的な拡大を遂げました。それを基盤に、4年前ぐらいから比較的安価な一眼レフカメラが市場に投入され多様な製品ラインナップを形成するようになりました。そして、その両方のマーケットが巨額の売り上げを続けてきているのが、この数年の市場の状況です。

そうした異なる二つの市場が利益を生むカタチで活性化している中で、「一眼レフ技術を、そのままコンパクトカメラに凝縮したカメラ」の開発、および、その製品化は、明らかに既存の二つの市場を混乱させるでしょうし、カメラメーカーの多様な製品群全体として、矛盾を生んでしまうカメラ開発という事態に繋がってしまう可能性があるのではないか…と僕は考えてきました。これに関しては、色々な意見があるかと思いますので、またコメントなどで、皆さんのご意見を聞かせて頂ければと思います。

話を戻します。シグマ社は、「一眼レフ技術を、そのままコンパクトカメラに凝縮する」というコンセプトを、DP1というカメラで実際に具現化したわけですが、それは「言うは簡単、実現するはとんでもなく困難」なミッションだったことは言うまでもありません。まず、どのようにして「コンパクトに凝縮する」のか…。つまりダウンサイジングの側面です。フルボディ一眼レフであるSD14と、まったく同じスペックを、今のDP1/DP2のようなコンパクトなサイズにダウンサイジングする。しかし、カメラの中央に置かれるセンサーのサイズは同じなわけです。そして、それを処理する基盤だけでもコンパクトというサイズは埋まってしまう…。

これはとても大きな課題だったと思います。シグマ社はこの課題をクリアするために、それまで基盤上で数多くのチップで処理していた「ソフトウェアベース」のデジタル変換を、ひとつのLSIで処理していく「ハードウェアベース」という、新たなアーキテクチャ開発に着手し、まったく新たな画像処理エンジン(すべてを処理する新たなLSIチップ)を具現化しました。いまDP1に搭載されている「TRUE」チップがそれです。DP2では、さらに進化した「TRUE II」が搭載されています。ちなみに「まったく新しい」という意味は、シグマ社の以外のデジタルカメラに搭載されている、従来の「ベイヤー型センサー(モノクロセンサーの上にモザイク状のRGBカラーフィルターを載せ、上下左右4ピクセルの信号を分析して色を作る)」の信号処理を行うのではなく、Foveonセンサーという、1ピクセル単位にRGB三原色の光を捉えるフルカラーセンサーのデータ処理を行う、という意味です。これだけ多種多様なデジカメが発売されているわけですから半導体メーカーには、かなりの「ベイヤー型センサー」処理のノウハウが存在しています。しかし、フルカラーセンサーのデータを処理するというノウハウは、半導体メーカーにとっても未知のものであり、言葉通り「まったく新しい」チャレンジだったわけです。

さらに、シグマ社のDP2は実際にシャッターを切ったとき、光を受け止めたFoveonセンサーは約21MBのデジタルデータを生成します。それをそのままバッファメモリに蓄え、約14MBの画像データへと超高速に変換し、SDカードにデータを送って記録させているわけです。このエントリーを読んでくださっている方は、当然コンピュータを使っておられるでしょうから、21MBのデータ処理や、14MBのデータ転送という処理には、ある程度の時間がかかるということは体感としても、ご理解頂けると思います。そういう意味では、僕たちが使っているコンピュータよりも遥かに高速なデータ処理を行う超小型のLSIが、DP1/DP2には搭載されていると思って頂いてもいいと思います。

極端に言えば、従来の「ベイヤー型センサー」の信号処理という技術を使い、センサー、DSPチップ、レンズ、液晶、バッテリーなどを、あちこちからパーツを寄せ集め、独自の筐体にアセンブリし、市場に「デジタルカメラ」として導入する、というのは、現時点では、それほど難しいことではありません。携帯電話やパソコンに搭載されているWebカメラのように、そうした技術自体は、ノウハウを含めて、すでに「汎用」と呼んでもいいぐらいの状態になっています。

もちろんシグマ社も、最終的に出来上がるカメラを、いかに顧客が買いやすい価格に近づけるか=原価をいかに抑えるか、という側面では、そうした汎用となっている部品や技術を部分部分で導入しています。しかし、デジタルカメラにとって最も重要である「画質」を追求する部分では、シグマ独自の「レンズ開発」と、フルカラーセンサーである「Foveon X3」の搭載。そして、そのデジタル信号処理に関しては、他社にはないわけですから、完全に独自なノウハウの蓄積によって生み出されているわけです。我々に驚くような「写真」をもたらすカメラの内側には、単に他とは違うものが詰まっている、というだけでなく、孤高に独自の写真づくりを追い求める中で、磨きに磨かれたシグマ独自の数々のノウハウが詰まっているわけです。

こうしたテクノロジーの世界で、完全なる独自性を保持し、それで製品を開発し、世に出す、ということが、どれほど大変なことか。今日は、シグマという会社が、みんなが思っている以上に、ものすごい努力を続けている、というところを知って欲しいと思って、このエントリーを書いてみました。

僕は、確かに人よりも深くシグマという会社に関わっています。しかし、今日の講演でも話しましたが、「ダメなものはダメ」とキッパリと言う(今日、山木社長も言ってましたが、時には怒ってものを言う)というスタンスは誰にも負けません(笑)。もともと僕は「ずばり言うわよ」というタイプなので、シグマ社の方々からも「また怒られるんじゃないか」って思われてたりしています(反省)が、シグマさんと関わって以来、お互いの関係の中で、「中途半端なままってのはやめよう」という姿勢を崩したことはありません。こんな僕を受け入れてくださるシグマさんは、やっぱりすごいなぁと、いつも思っています。

そして、僕もひとりのユーザーであり、DP1やDP2を使ってカタログなどに使う責任の重たい写真を撮るわけですから、使っている中で「なんだこれ?」って思うような「使い勝手」における不満は、実際のところ、いっぱいあったわけです。でもそれは、そもそものカメラ設計の仕様を変えなければならないほどに重要なものであるのかどうか、という視点に立つと、極端な言い方ですが、「そっか、それは自分が、それに慣れちゃえば済む話だな」というようなものが多かったわけです。重要なのは、そういったちょっとした使い勝手の良し悪しではなく、シグマ社が出すカメラにとって最も重要なところは何なのか…、というところに立ち戻ってシグマ社さんとの議論をずっと続けてきました。

そうして、DP1 / DP2というカメラは生まれました。そして、そうした議論の中から、DP1 / DP2というカメラを「買うべき理由」というものを見い出し、それを素直にカタログなどのコミュニケーションに反映してきたわけです。世界にひとつしかないという独自性。そしてその独自性が生み出す、想像を遥かに超えたパフォーマンス。僕は、ひとりのシグマのカメラユーザーとして、一人でも多くの方に、ぜひ、その凄さを一度体験してみて欲しいと願っています。それは、「一度経験したら、もう元には戻れない」、という異次元の世界ですから。

8 comments:

  1. 昨日、行けなかったのでほんの一部だけでも、ブログで読めて良かったです!!
    ちなみに僕も、一度経験したら、もう元には戻れない!!状態です。

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  3. 昨日は素晴らしい講演をありがとうございました。
    福井さんの作品群が呼び水となって、この世界が広がってゆくことを期待しています。DP1/DP2はベイヤー陣営からみれば「異形の進化」かもしれませんが、光を映像に変えるアーキテクチュアがひとつの方向でなければいけないという法はありませんからね。

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  4. 昨日は、ありがとうございました。
    実はテクニカルな話を期待して行ったのですが、それ以上の枠組みの講演で、とても参考になりました。
    フィルムの時は、ある考え方を持って写真を楽しんでおりました。デジタルになって、色々な要素が加わり、ユーザーが直接いじれる部分が増え(撮影回数、raw現像等)、どう向き合うのが良いかわかりませんでした(本質はフィルムと同じなのでしょうが)。福井さんの講演を聴き、明確にすることができそうです。シグマという会社についても、薄々感じていたことを、"やはりと"納得しました。
    この楽しい感を、多くの人にも伝えて欲しいです。

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  5. はじめまして。
    関西在住の為昨日は行けなくて残念に思ってましたが、
    ブログで読めてよかったです。
    DP1&DP2は、自分が撮っていて本当に楽しいと思えるカメラです。
    そんなカメラってなかなか無いですよねー。
    DPシリーズの意思がユーザーにまで伝わって、共感を得ているのだと思います。

    次回は是非、心斎橋のアップルストアでも講演会をお願いします笑。

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  6. こんにちは

    DP1,2を両方買って楽しんでいます。DPのコンセプトに惚れた私としては福井さんのお話がとても嬉しいです。
    講演聴けなくて残念だったのですが、これからもブログ拝見させて頂きたいと思います。
    某価格掲示板にも紹介させていただきますこと、何卒ご了承ください。

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  7. みなさん、ありがとうございます!楽しんでいただけたのが一番うれしいです。引き続き、よろしくお願いします!

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  8. 本文をちょっと加筆しました。

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