Wednesday, February 04, 2009

企業サイト改変不要論

最近、どこの企業のサイトを見ても、だいたい同じような感じになってて、それで何かが変わるかって言っても別に何が変わったってこともなく、あまり効果もないみたいだし、もう企業サイトをピカピカにするという時代は終わった感じだね…」。

昨夜行われた文化庁メディア芸術祭の授賞式。その式典が終わった後の懇親会パーティで、ある人にこんなことを言われました。ちなみに昨夜、これを僕に言った相手は、Web業界ではそれなりに実績のある人で、僕としては「この人わかってないなー」って思ったんだけど、その人は広告の方の人だし、「いやそれは違うでしょ」とその場で言っても時間の無駄だなと思ったのと、もっと別に話したい人もいたので、にっこりしながら「そうですねー」と言っておいた。

まぁ、似たようなトップページがあり、脈絡のない打ち出しがFlashで作られてぴょこぴょこ動いてたり、クリックすると本体も似たようなグリッドで似たようなデザイン…という感じで、そういう風に思われても仕方ないリニューアルが数多く行われているのは僕も認識している。だから、そういう側面からは僕も「終わった感じ」と思いますよ。ただ、根本的に大きな勘違いがあるようなので、ちょっと書いておこうと思う。

企業サイトを手掛けると言っても色々ある。中でもよく勘違いされるのは、「リニューアル」と「リストラクチャリング」の混同だ。ナビゲーションを整備したりユーザーインターフェイスや見た目を変えて、回遊性やコンバージョン率を向上させる「リニューアル」と、個々の企業の事業モデルが持つ顧客との接点のシナリオを洗い出し、個別のコミュニケーションの最適化と同時に、事業モデルそのものまでを組み立て直してサイト構造を導き出す「リストラクチャリング」は、まったく別次元の仕事なのだが、どうもそのあたりが理解されていないようだ(僕がbAに在籍していた頃はセミナーなどで、そういうレクチャーは行ってはいたんだけどね)。

ただ、普通の人というか表側から見ている限りは、そんなことは知らないというか、それらが何が違うのかがわからず、「リニューアル」だと思っていることが大半なんだと思います。いや、普通の人だけじゃなく「企業サイトをリニューアルしました」と実績に載せている人も、そこのところは、あまりわかっていないんじゃないかな…。知っていれば「リストラクチャリングしました」と実績に記載するだろうしね。

もっと言えばリストラクチャリングは、文字通り事業の再構築を伴ったコミュニケーションの最適化なので、デザイン表現を主体としている個人や会社には到底出来るものでもないと思います。それは僕自身が経験したことでもあって、個人事務所でデザイン業務を中心にしていた中で「これじゃダメだ。そういう仕事をする体制を作らなきゃダメだな」と思ってbAを設立し、手掛けた一社一社に総力戦で取り組んで、それでも納得の行く結果が出せるかどうか…というほど難しい仕事なのですよ。

企業サイトをリストラクチャリングするというのが、どういうことなのか。それを書き始めたら一冊の本が出来てしまうほど長々と書かなきゃ説明は無理なんだけれど、「リニューアル」との大きな違いは、サイトが主体の再構築じゃないってことかな。「リストラクチャリング」はビジネスの最適化が主目的であって、そこにコミュニケーションの最適化のためのITインフラがあって、そのシナリオがサイト全体の構造と立ち振る舞いを決定づけて…と、デザインとかユーザビリティとかは最後のフェーズの一要素でしかないわけです(もちろん重要ですけど)。それを戦略と呼ぶのか、IAと呼ぶのかは別にして、とにかく手掛ける企業の持つビジネススタイルと顧客マインドは全部異なる上に、企業文化も全然違うので、決してあるパターンを導入すればそれで結果が出るというものではないのです。吊るしの既製服じゃなく、体型にピッタリ合ったオートクチュールの作業と言う感じでしょうか。

このあたりを勘違いして、「今までにない高機能なCRMシステムがあります。導入しませんか」っていう、システムパッケージ系を主軸に置いたリニューアル(カスタマイズと運用でがっぽり。さらにそれらの要件定義は相手次第という深い沼の提供モデル)は、言い換えれば、顧客の利便性と言う免罪符を盾に、その導入企業のビジネスフローをシステムに合わせて根本的に変えてくださいというオーダーに繋がるわけです。そこに業務コンサルやインストーラーが存在するなら話は別ですが、ただ「システムが変わりましたのでよろしく」では、十中八九は頓挫するか導入しても結果が出ないのが普通です。だって誰だっていつも通りに仕事進めたいじゃないですか。それをシステムに合わせて変えてくださいって言うこと自体、無茶なんですよね。技術はいくらでもあるんです。リストラクチャリングでは、それをどう人が動かせるように埋め込むか、が課題なわけです。

まぁ、こういうことを書き始めると、ホントにキリが無くなってしまうのでもうやめますが、少なくとも「見た目をどうにかしましょう」っていうリニューアルは最低限いろいろやって頂くとして、本質的に企業サイトを改変して行くっていうのは、顧客のコトを考えたとき、企業としてのコミュニケーションが今のままでエクセレントなのかどうかを常に鑑みる体質を持った担当の方々(そういう風に育てるのも仕事)と「これでいいのかなぁ」と一緒になって考え続けるところに「どこまでも付き合っていけるかどうか」しかありません。

最初に掲げた言葉を吐いた広告の方の人は、どこまでも付き合っていくということを勘違いしていて、どこまでも新しい花火を生み出しますよ、というところで企業へのソリューションを提供されているのだと思います。それはそれでいいのですが、なんとなく薄っぺらいなぁとは思いました。

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