Saturday, January 17, 2009

資生堂のアジア戦略

このまえ、コミュニケーションのグローバルマネジメントの話を書いたけど、今朝、資生堂がアジア圏でのコミュニケーションマネジメントを本格的に着手するというニュースが出た。

ビューティという分野も、同じ商品をグローバルに展開するビジネスが可能ではあるが、クルマや家電やカメラと違って、この分野は人種や文化によって細かくコミュニケーションをチューニングしないと受け入れられない。顔かたちが違えば何を美しいと思うかも異なるし、そもそも肌のタイプが異なるのだから、マーケティングはとても複雑になる。それを「これがいまの美です!」と言い切る形で押し切っていくのはモードブランドのように独自のブランド世界を構築し、雑誌媒体への圧倒的なイメージ戦略と、突出した売り場づくりが必要になる。ディオールやシャネルのように、ビューティ分野だけではなく、モードも含めたブランド価値を統合的に動かせる一部の企業体は、その資産を最大活用する戦略でマーケットを拡大してきたが、それには莫大な資金と、管理していく強力な社内体制が必要であり、これまで日本の企業は中々踏み出せなかった。

もちろんイメージ戦略を統一すれば成功するわけではない。重要なのはプレス機能(広報)と売り場(顧客体験)だ。まず広報だが、ブランドとしてイメージ広告を出稿する雑誌が、特集としてどこまで詳細に商品属性を記事として伝えられるかが重要であり、それを細かく仕込んでいく広報の力が成否を分ける。だがその広報も、どの雑誌も同じような提灯記事では意味を為さず、雑誌ごとに細かく企画を立て、個々の雑誌の読者層に届くようにアピールポイントを最適化する必要がある。プレスがただの出稿管理レベルではお話にならず、そうした有効な広報企画は媒体との信頼にも繋がるので、継続することができなければならない。さらに各国ごとにセレブを巻き込んでの話題づくりなどなど、現場レベルでやるべきことは満載だ。

さらに顧客体験。ブランドイメージを前面に打ち出した斬新で印象的な売り場の設計は絶対に必要であるが、中でも重要なのはその「場」でどれだけ豊かな顧客体験を生み出せるかが成否を分ける。これを成功させるには接客する販売員のインテリジェンスを他のブランド以上に高めなければならず、その教育にも莫大な費用と時間と手間がかかる。実際、今のコスメティックは完全にサイエンスであって、どういった革新的な科学が個々の化粧品に応用されているかを訴求する戦いになっている。つまり生半可な知識しか持たない「立ちんぼ」の販売員では競争にもならない。高度な話を顧客それぞれに落とせるマヌカン教育が、実は一番大変なところかもしれない。

もちろんこれだけではない。書き出したらキリがない。だが、こういった要素を、国ごとにすべてを洗い出して方針を決め、適切に対処し、豊かなコミュニケーションを継続することが、いかに大変で複雑であるかは、これを読むあなたにも想像出来るだろう。大量に広告を投下すれば何かの流れは変わるかもしれないが、「売れ続ける」というビジネスとしての成功には何よりも現場レベルでの細かな最適化作業が絶対に必要になる。アジア圏というリージョナルなマネジメントではあるが、資生堂さんがそれに踏み切り、競争力を高めようとするのは素晴らしい取り組みだと思う。どこまで出来るのか今後の動向を見守りたい。

資生堂、「美白」売上高の1割販促に アジア強化へ20億円
資生堂は中国やタイなどアジア7カ国・地域で高級化粧品の販売を強化する。2月から美白効果のある化粧品の売り場づくりや広告に、売上高の1割に当たる 20億円を投資する。日本流の接客術も導入する。アンチエイジング(抗加齢)効果を期待できる商品でも同様の販売促進策を展開する。資生堂は中国、香港、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、韓国の百貨店に約700カ所の売り場を持つ。美白化粧品4ブランドの陳列棚やポスター作製などの売り場づくりや広告・宣伝はこれまで国・地域・ブランドでばらばらだった。日本を含めて9月末まで、これを一本化する。美白のクリームや化粧水などの宣伝のコピーを漢字で「百年美白」(中国のみ「美白先駆」)と統一して売り込む。テレビCMなどのマス広告を主体としない高級化粧品で販促費に売上高の1割を投じるのはあまり例がないという。(08:14)
 出典:NIKKEI NET

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